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2008年09月 アーカイブ

2008年09月03日

サーバの仮想化(virtualization) メリットは何か

最近のITキーワードとして、「仮想化」があります。一つのPCで、複数のOSを独立して動かす技術です。今日、ふっと仮想化を利用したアイディア?を一つ思いついて、色々と検討していました。当方の考えたアイディアは「お遊び」の発想なのですが、思考の流れを並べてみますね。

  1. バックアップを時系列で保存しているハードディスクが、複数溜まってしまった
  2. それらは、それぞれ単一のディスクにしまってあるのだが、RAID5で冗長化したくなった
  3. しかし、わざわざファイルサーバを改めて用意するほどの用途でも、使用頻度でもない
  4. 手元にあるWindowsXPをインストールしたPCで何とかならないだろうか?
  5. しかし、このPCにはRAID5を構築できる機能が無いし、RAID5のカードを買い足すほどの用途でもない…
  6. また、バックアップ時以外には、うるさいハードディスクの電源は入れておきたくない(今はほぼ無音なので)
  7. なんとか、今ある機材だけで、RAID5を構築する手は無いか?
  8. そういえば、ハードディスクのリムーバブルケースは余っているな。これで、使っていないときにディスクの電源は切れる
  9. じゃあ、後はRAID5を作ればいいから、LinuxのmdadmでソフトウェアRAID5でもやろうか
  10. でも、デュアルブートにしちゃったら、WindowsXPからアクセスできないじゃないですか…
  11. よし、ならWindowsXPの上でVMwareを動かして、その仮想マシンの中でRAWデバイスのRAID5を構築しよう
  12. それで、Sambaを入れれば、XPから仮想ファイルサーバとデータをやり取りできる!

…と、ここまで考え、500GBx3=1TBのRAID5ストレージを作って運用し、ファイルサーバがいらないとき(使用時間の大部分)は、ハードディスクの電源も切っておけるし、仮想マシンも起動する必要なし・ということで、なんかいいアイディアのような気がしました(笑)。普通だったら、ファイルサーバを用意するものなんでしょうけれども、貧乏くさいというか、仕事柄、無駄を作らないソリューションを突き詰めてみたいというか…。自分の環境ですから、こういったやり方も面白いということで、暇を見つけてやろうと思っています。

ところで、仮想化の真のメリットってなんでしょう?VMwareはじめ、Xen・Hyper-V・AMD-V・VT-xなど、仮想化を提供する技術は増えてきています。そこで、仮想化を使った各ベンダーの推す、仮想化を利用したITソリューションのメリットを色々と読んでみたのですが、今ひとつピンときません。

何でピンとこないかというと、「仮想マシンを導入するメリット」については、確かに色々と謳い文句が語られるのですが、「仮想マシンが絶対に必要なシーンは何か?」の提示が、ほとんど見受けられないのです。どころか、プレゼン資料では、「高可用性」「自動化」「生産性向上」など、かなり無理なところにまで結びつけているような気もします。

まず、メリットとして多く言われているのは、「実は、稼動しているサーバのCPUパワーのほとんどは遊んでいるから、その遊んでいるCPU時間で仮想マシンを動作させれば、無駄を抑えることが出来る」という点です。確かに、物理サーバーのなかに仮想サーバを複数置けば、場所などのコストが小さくなります。サーバー統合ということで、管理面も一つのPCで全部を見ることが出来るので、楽になりそうに思えます。

しかし、仮に遊んでいる部分があったとしても、遊んでいるのはCPUパワーだけです。バス・ハードディスクなどの低速なペリフェラルは、CPU以上に働いています。CPUが遊んでいるということは、何か仕事があったらフルにぶん回せる、余裕のある状態だともいえます(※もしかしたら、かなりの企業がオーバースペックのサーバを買ってしまった・もので、CPUが遊んでいる状態かもしれませんけれども…)。とまれ、もし仮想マシンがプロセスとして増えたら増えた分だけ、新たにOSを動かす負担が掛かります。OSを動かす=単なるプロセス以上にハードディスクやメモリなどのI/Oを酷使することとも言えますので、それぞれの仮想マシンのパフォーマンスは落ちてしまいます。I/Oの負担増に関しては、仮想化のデメリットとして多く触れられていますので、「ハードディスクを仮想マシンごとに分ければいいじゃない」「CPUをすごいのに変えればいいじゃない」「NIC挿しまくればいいじゃない」というソリューション?も答えにありそうですが、それは、結局ある程度のコスト負担が発生しますね。

次に、サーバを仮想マシンで統合する点について。サーバのソフトウェアやシステムには色々あるので、一概には言えないのですけれども、「仮想化する必要があるの?」という疑問が生じてきます。ソフトウェアが余程ひどい作りで、常にCPUタイムを食い尽くすようなものであれば、仮想マシンで分けてしまうのも手かもしれませんが、仮想化ソフトウェアがCPUロードをコントロールできるのと同じ・ないしは、それ以上のレベルで、サーバのプロセスもシェアリングを行っています。プロセスが同じサーバで動いていれば、そもそも統合化という考え方にはなりません。ですから、仮想マシンを動かして、その下のプロセスとしてサーバソフトを動作させるよりは、普通にホストOSのプロセスとして走らせた方が、高速ですし省電力でしょう。また、サーバを分ける大きな理由となるデータベースのレプリケーションや、ラウンドロビンなどは、仮想化で統合というアプローチには、たどり着きづらいと思われます。ただ、「ウェブサービスは絶対にIISじゃなきゃいやだ・でも、DNSはFreeBSDじゃなきゃいやだ・データベースは、Linuxで動いているPostgreSQLじゃなきゃいやだ」みたいな設計を出されたら、仮想化の魅力はありますね。

そして、フェイルオーバーに関して。仮想化で提示されるメリットにおいて、仮想マシン内でのOSやプロセスのクラッシュが、ホストOS・他の仮想マシンに影響を与えないことが強調されますが、実のところ、普通に設計して運用しているならば、OSやプロセスがクラッシュするよりも、ハードウェア障害の方が余程起こりやすいといえます。通常、壊れやすいハードはハードディスクとマザーボードなので、大抵は予備を持っています。例えば、Webサーバが壊れても、そのサーバ以外は生きていますから、いじる必要は無く、故障したウェブサーバの機材交換とチェックだけで、すぐサービス提供の状態へ復旧できます。しかし、統合された1台のサーバが深刻なハードウェア障害に見舞われたら、仮想化されている全てのサーバ機能がダウンしてしまいます。確かに、仮想マシンはハードウェアへの依存が低い(※ほぼ無いかもしれません)ので、どんな代替機にでもすぐに移し変えることが出来るのですが、結局、各仮想サーバのバックアップ(ないしはスナップショット)は作らなくてはなりませんし、各仮想マシンの、クラッシュ状態はどうか・ファイルシステムは無事なのか・データの不整合は生じていないか?などなど、それぞれの仮想環境の確認と復旧には、結構な手間とパワーが掛かるように思います。そう思うと、仮想化によるサーバ統合化は、リスクやダメージも統合化されてしまうのではないか?と、考え込んでしまいそうです。

他にも、コンピューティング環境の破壊や、ウィルスなどの感染に対処するために、クライアント用途で仮想マシンを使用して作業をする利用例もありますが、仮想PCは、ビデオなどのデバイスへの出力はそれほど早くないので、GUI等の環境では、かなりじれったいかもしれません。

と、ここまで、仮想化をビジネスと結びつけるメリットと、それについての私的な考えをつらつらと書いてみたのですが、仮想化については、ハードウェア進化における「省電力性」ほどのアピールを感じさせてくれるわけでもないし、「本番の使用にも十分耐えうる」など、逆に心配になるような強調があったり、そもそも「CPUが常時遊んでいるようなサーバ群を、設計構築して導入を計画したのは、どこの誰なんだよ」のような素朴な疑問がわいてきます。しかし、だからといって仮想化は余計なこと?無価値?かと言えば、そんなことは無いと考えます。

実際に仮想化を試してみた多くの人の感想は、「PCのなかで他のOSが動いていて、面白いな!」くらいの印象が、多いかもしれません。当方も、そんな感じでした。しかし、仮想化は、「プログラミングやテスト環境の構築」「特殊な状況でのデプロイメント(この場合は、環境の可搬性というべきでしょうか)」などの用途では、既に多く利用されています。ビジネスとして「頑張って仮想化のメリットを見出す」状態から、「仮想化が必要とされる状況」が見えてくるのは、もう少し先にあるのかもしれません。

冒頭に書いた、当方の仮想化の利用例は、ビジネス価値へ結びつく例としては、あまり出てこない要求だと思います。しかし当方にとっては、固有の条件を満たす、いい解決方法が得られそうだと思いましたし、仮想化の用途を考えてみるいい機会になりました。こんな、ちょっと変わった使い方への要求があれば、ぜひ聞いてみたいですね。そこには、仮想化の思わぬニーズが隠されているのかもしれません。

2008年09月05日

VMware仮想PCにCentOS5.2とTrueCryptを導入

詳しい計画については、前回の記事をお読みください。ここまでやったことは、VMwareをインストールして、CentOSを入れて、mdadmでRAID5のボリュームを作りました。結果は成功でした。ところで、VMwareのちょっとしたTips。VMwareをインストールすると、5つくらいサービスが追加されるのですが、これの起動に時間が掛かる=Windowsの起動が遅くなるので、VMwareのサービスは、普段は手動にして止めておき、VMwareを使うときだけ、これらのサービスを起動するようにします。当方の場合は、バッチファイル(.bat)に、net start "VMware ...." を書いておいて、VMwareを起動させる前に、そのバッチを実行してから、VMwareを立ち上げる手順にしています。

この状態から、VMware上でTrueCryptを導入してみました。以下は、そのフローです。躓いたり失敗した部分がかなりありまして、次回同じようなことをやるときは先に準備をしておく為に、躓いた点もそのまま含めて、履歴としてフローに入れておきます。

TrueCrypt 6.0aをインストールする
{
  MacOSX/linux向けのソースをダウンロードして展開
  {
    wxWidgetsが必要らしい
    {
      wxWidgets2.8.8 をダウンロードして展開
      configure に失敗する(gtkが必要)
      {
        yum で、gtk を入れる(configure 失敗)
        yum で、gtk2 を入れる(configure 成功)
      }
      make する(失敗, gcc が必要)
      {
        yum で、gcc-c++ を入れる
      }
      (一応) configure をやり直してみる
      make install 成功
    }
    Readme.txt をよく見たら、NOGUI でmake できるらしい(gtk 不要??)
    X で操作しないから、GUI は要らない
    make NOGUI=1 WX_ROOT=/usr/src/wxWidget-2.8.8 wxbuild(成功)
    make NOGUI=1(失敗, fuseが無い)
    {
      yum のリポジトリに、rpmforge を加える
      fuse fuse-devel を入れる
    }
    Main ディレクトリに、truecrypt 実行ファイルが出来た
    適当なディレクトリ(当方は/root/) にコピー
    どうせroot権限でしか実行できないので、実行は、~/truecrypt
  }
}

※この段落は、9/5、TrueCryptのインストールが成功して、ボリュームを作ってマウントした際の情報です。マウントしようとすると、fuseがdevice errorを出します。色々調べた結果、 yum install dkms-fuse modprobe fuse を行った後に、マウント出来ました。デフォルトのマウントポイントは、/media/truecrypt1になります。
※この段落は、9/5、更に追加です。まず、FATでフォーマットしたために、一つのファイル容量に4GBの制限がでてしまう。これはフォーマットをやり直す。次に、TrueCryptでマウントするボリュームの所有者は、truecryptのオプション--fs-optionsにmount(8)の-uオプションを与えて指定できるが、この辺りでハマる。今のところ、暫定的なテスト手段として、マウントはroot権限、sambaもroot権限でアクセスさせ、更にSElinuxによるセキュリティ制限を解除するために、setenforce 0で見えるようにしているが、セキュリティ面を考えた更なる見直しが必要。

状況をまとめます。Opteron 2.0GHz (メモリ DualChannel 2GB)にインストールされたXP Pro SP3の上で動作している、VMware server(メモリ 256MB)の上でCentOS5.2を動作させ、物理ディスク3台を使用してmdadmソフトウェアRAID5を/dev/md0に構築、そのRAIDボリュームをTrueCryptで暗号化、Sambaでそのボリュームをネットワークに繋げて、ファイルサーバとして必要なときに機能させる。

こう書くと、かなり苦しいことをやっているようですが、エンクリプトの進捗状況を見ていると、32.5Mの暗号化速度が出ています。結構早いな…というのが、正直な感想です。RAID5のパリティ計算+暗号化の計算を、全部CPUでやっているので、CPU使用率は80%を超えていますけれども、ホストのXP上でちょっとした作業(※こんな文章をテキストエディタで書いたり、IEでのウェブブラウジング)では、ストレスは出ません。

ファイルサーバが要らないときは、ハードディスクの電源を落として、VMwareも起動させない。普通にXPだけを使うことが出来ます。当方のケースでは、まずクライアントマシンとしてXPを常用していること、ファイルサーバとはいえ実質的に保存するだけの用途、使わないときが多いためTCO(※Total Cost of Ownership ここでは、ITに掛かる全費用と考えてください)を抑えたい、こういった要素が複合して、このやり方をソリューションとして導き出し、また必要十分な結果を得ることが出来ました。

しかし、企業など複数の人が常用するファイルサーバなら、クライアントマシンに仮想マシンでサーバを入れて使うよりも、独立したマシンを用意する方が、パフォーマンス面でも安定運用面でも賢明です。IT導入は、そのケースと要求に応じた分析力と解決策が必要ですね。

ところで、ITコンサルタントって、こういった一連のIT技術を全て理解している必要がある・と、個人的には思っています。ITコンサルタントは、顧客とダイレクトに向き合うケースがほとんどですから、ソリューションについての企画立案とメリットやデメリットの提示・案件定義への理解+現場の進捗状況の把握(※時として指示)・初期交渉からスタートする対価の折り合い付け・e.t.c.、なんでも出来ないと、コンサルタントとして機能できないような気がするのです。

とはいえ、IT企業の仲介をメイン業務としてコンサルタントを名乗る方が、仕事としても楽だとは思うんですが…。それは嫌な意味ではなく、当方のメンタリティやスキルバランスを考えてみると、仲介によってIT企業に仕事を与え、それを管理したいと考えるよりも、自分の実務スキルを以って、実際に手を出す方を好んでいるからかもしれません(※正直、あちこちを見て回る事になるので、ロスが多くてしんどいですが…)。

2008年09月17日

WallSt.発の金融ショックを見ながら…

かつて、暗黒の日曜日(Black Monday)と呼ばれた、ニューヨーク市場に端を発した経済危機がありました。本質的な原因はどこに潜んでいたのか?金融経済は実体経済と共存する形としてどうあるべきなのか?その答えは誰にもわからないまま、金融経済では規制緩和と投資(投機)ブームによって様々な金融商品が生みだされ、より複雑に・より投機的な性格を増していき、ミニ株・FX取引など、一般の人たちも投資という形で金融市場へ参加しやすくなった時代になりました。投機熱に支えられて、株式による資金調達の容易さは高まり、新興市場と呼ばれるマーケットには、IT関連を筆頭に雨後の筍のように多くの企業が上場を果たしました。企業買収においても、1987年当時のM&A手法よりも更に資金調達が容易となりました。買収後の相手先資産を担保にしたLBO(レバレッジド・バイ・アウト)による資金調達も一般的になり、時間外取引を活用(?)した株式の大量取得も記憶に新しいところです(※この取引に資金を提供した企業は、一般の方にとっても今週からだいぶ有名になりました。ついでに、資金を調達した企業の元社長のインタビューを某所で読みましたが、当方の印象では、ITについての捉え方も現状認識も、「いつの話?」といった感じでした)。

あれから20年以上経った今週。再び、ニューヨークのウォールストリートからショックが起こりました。CNBCによる記事はBloody Sunday: Wall Street Is Hit by Financial Tsunamiと題が付けられ、NYSEから全世界のマーケットに不安が広がりました(広がっている最中です)。当方も、CNBCを一日見ていました(※以前にも書きましたが、当方は金融商品は一切所有しておりません)。しかし、土日をはさんでJPNUSDの幅が4円近くも動いたのを見たのは、始めてかもしれません。そして、他の企業からも信用不安が発せられそうな情報も流れています。この状況にあって、あえて現状をくだくだしく説明したり分析するのは、当方の仕事ではありませんし、むしろ当方よりも詳しい方のほうが多いでしょう。

ただ、金融経済にこういったショックが与えられたのは、決して悪いだけの側面しかないとは思っていません。「お金ってそもそもなんなんだろう?」「経済のグローバリゼーションって、なんなんだろう?」「グローバル競争は競争だから勝ち負けがあるけど、最後の勝者ってどういう立ち位置なんだろう」そういった疑問を、色々な人が、色々な立場で考えるきっかけになるでしょうね。

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個人的な経済活動への感覚では、モノの大量生産・大量消費が中心産業の時代から、証券化された商品を担保に重ねて利益を求めていく金融・投機が世界を動かす流れとなりましたが、今後は、もっと無形の・例えば人が人に対するサービスの事業価値が注目されるポイントになると考えています。うんざりする国民年金問題・後を絶たない食品偽装などによって、サービスの本質やあり方が見直され始めてきている状況もあって、サービスを受ける側の意識が変わってきています。

あんまりな状態の介護事業・企業の押し付け気味なITサービスなど、そういった事業が見直されて、高度な内容と満足度の高い事業が選択されていくと思われます。同時に、貨幣の流動性が、今よりも少しだけ低くなるかもしれない・とも思っています。経済成長に右肩上がりのトレンドが当たり前ではなくなる時代が到来しつつある・という見方です。

当方の仕事も、人へのサービスを提供する側面が大きく、ITコンサルタントとして事案に関わる以外でも、電話でちょっと問い合わせを受ける・見解を求められる・他企業の提案に対する効果や根拠を確認して欲しいなど、直接の事案ではない「お問い合わせ・お付き合い」が、コンサルティングの付加価値になっています(※もっとも、大手のコンサルティング企業に気軽な電話はしづらいですからね)。

なんかの漫画か本かのうろ覚えですが、明治期?江戸期?に日本を訪れた外人さんが人力車を見て、「人を乗せて人が引っ張るなんて、なんてひどい話だ(※産業革命の優越や、奴隷のイメージと繋がるのでしょう)」と言ったという逸話があったように思いますが、サービスに見合う対価が成立していれば、ひどくもなんともありません。むしろ、人力車には色々な付加価値も付けられますし、観光地ではサービス形態として今でも残っています。お稽古事のお師匠さんや、家まで来て回ってくれる髪結いなど、ピンハネする元締めや対応マニュアル無しに、人が人に対してきちんとした内容でサービスを行う仕事は、かつての日本ではそれほど珍しくないように思えます。そして、いいものにきちんと対価を支払う。経済構造としては矮小で古臭くて、経済学や金融工学などの立場で見ればバカらしいにも程があるんでしょうけれども、暮らしているのは昔も今も同じ「人間」なわけでして。

当方は、日本は遥か中世の昔から、モノ作りやサービスに関して長けていると思うんです。もし、国際競争力への圧迫感や、経済の進歩によってどんどん変わっていくものがあるとしたら、自己責任(※=暗に、自分さえ良ければいい・とにかく自分だけという含みもあります)の肥大・何よりも利益を重視してしまう傾向、そういった点かもしれませんね。

今、ユーロとドルが嫌気されて円が急騰しています。このことが、日本の金融経済にどういった影響を与えるのか?金融経済が軸で経済が動いていくのか、それとも…?1年後の経済はどうなっていて、世の中はどうなっているのでしょうか。

2008年09月29日

コンサルティング視点で見る中小企業のIT導入と効果

小さい案件ではホームページの制作と開発から、大きいところでは基幹システムの導入まで、この10年くらいで各産業へのIT導入が進められました。その導入をサポートしたITベンダーやSIerの公表するクライアントからの導入リアクションを見ると、「導入されたお客様に非常に喜んで頂けた」「IT設備投資による効果を感じられたと喜ばれた」「●●株式会社における弊社システムの導入事例」など、見事なまでの美辞麗句が並んでいます。最も、自社のアピールで「見事に導入に失敗し、取引を打ち切られました」「導入したシステムの維持費で却って赤字になったようです」「IT研修を終えて1週間の開発チームが担当したところ、バグや想定外の動作で、弊社もクライアントも損失計上となりました」なんて、書くわけがありませんが…。

ところで、実際にベンダーやSIer、また小さいところではSEO業者やホームページ制作会社などが行ったIT投資は、どのような結果となっているのか。やってよかった?失敗したのか?無駄だった?…こういうことは、やはり資料を分析して調査しなければ全然判りません。そこで、商工中金が今年(平成20年)5月に発表した中小企業の IT 活用に関する調査を見てみましょう。この資料を元に、ITコンサルタントのコンサルティングのケーススタディっぽく「どのデータに注目し、どうデータをリンクさせて、ソリューションを得るのか」を、分析を交えながら考えていきましょう。

まず、IT化は確実に進んでおります。企業内へのインターネット回線の導入はほぼ完了、社内LANの環境や自社のホームページも7割が済ませています。ITの基礎的な土台への設備投資は、ほぼ完了といえるでしょう。全業種に亘って高い普及率と満足度を与えているIT活用は何かといえば、基礎的なメール・ホームページ閲覧・社内のファイル共有がほとんどです。しかし、です。インターネットのインフラがほぼ全国に行き渡っている現在、この用途でIT設備投資への不満が出ることはほぼ無いため、この点からIT導入の効果や満足度を評価するのは意味がなさそうです。

意外なことに、メディアでこれだけIT屋が大騒ぎしているにもかかわらず、データベースやシステムソフトウェアなど業務支援へのIT投資や、電子商取引におけるIT活用は、実はそれほど進んでいません(※引用資料の3P [図表1-2] ITの活用状況 より)。取り分け、顧客のデータをまとめてビジネスに活用する顧客管理分野でのIT活用は半数程度、またウェブ上で販路を作る電子商取引分野にいたっては、2割前後の導入実績しかありません。このことから、中小企業においてのIT投資は、まだまだ発展途上である事が窺えます。

なぜ、これまで中小企業のシステム関連のIT化が進まなかったのでしょうか?この点は、コンサルティングにおいて最も重要な分析対象になります。その背景には、もちろん各企業の固有事情もありますが、統計として注視しなくてはならないデータがあります。それは、投資意欲は今後もそれほどの拡大を示していないというデータです。ITという言葉がメジャーになって、「インパク」など国策主導でIT化への流れが始まってから10年余、その時から現在までのスパンにおけるIT導入済み企業の増加割合と、今後のIT投資意欲を数式化してみると、あろうことかトレンドとしての意欲は鈍いのです。

このことは、SIerやベンダーは大企業向けの製品やソリューションに注力してきたけれども、中小企業にとって“適切”なIT化を提案するベンダーやコンサルタントがいなかった・中小企業は無視されてきた事が一因にあります。また、中小企業特有の状況についても考慮しなくてはなりません。トップ高齢化などによる経営のパターン化・トップダウンによるリーダーシップ=経営戦略と投資判断などに、IT化も左右されるなどの理由も浮かび上がってきます。加えて、トップが感じるIT化への意識として、自社のIT化は、だいたい他の企業と同程度だろうからこれでいいと思い込んでしまい、それ以上のIT導入に対して思考停止してしまう。こういった点も挙げられます(中小企業の経営体制に特有の意思決定システムは、時としてデリケートな点です)。このような意識も、統計資料には表れてきます。IT化の遅れに危機感が伴っていないことをも暗に示すデータです。

また、『IT活用によって得られた効果に対しての総合的な評価』を、引用資料の前回調査時から4年後の今回の調査結果と対比して見ると、ほぼ同じ割合を示しています(※引用資料の9P [図表4-1] IT活用の総合的な効果 より)。これはいったいどういうことなのか?4年間の期間があって、IT導入は増加しているのに、効果を感じている企業割合が同数であるということは、IT化を担当したベンダーやSIerなどが、より活用に値するスキームを全く出していない?要因が存在する可能性も考慮に入ってくると思います。

つまり、中小企業の中でIT導入に失敗したと考えている企業もあるわけで、このことは「費用対効果」「初期費用とランニングコスト」が、IT設備投資への大きな障壁と考えている企業が多いことも無関係とはいえないでしょう(※引用資料の19P [図表7-1] IT化の障害や制約 より)。もちろん、このデータは純粋な費用対効果としてのデータというよりも、むしろ印象的な回答と捉えることが出来るので、昨今の売上不振などがより総合評価を落としていることも考えられますが…。

それでは、以上のデータと見方を元に、中小企業でIT導入を行うためには、どういった提案が必要とされるのかを、箇条書きにしてみましょう。

  • IT化が思ったより進んでいない現状を理解、IT導入への基礎的な啓蒙
  • 大企業ほどsystematicではない為、IT戦略すら顧客に合わせたカスタマイズが必須
  • IT導入の投資価値は、より具体的に示される必要がある
  • 企業の体力に合わせた、段階的で無理の無いIT導入支援を

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予想以上に中小企業でのIT化が進んでいないことに、驚く方も多いと思います。このままでは、ITを活用する術を知らないまま、どんどん遅れを取る企業や、IT化に失敗して経営難に陥る企業も出てきて当然といった統計です。現在の厳しい経済状況で中小企業が頑張るには、経営資源の有効活用と、一つ上の経営判断や戦略が必要となることは間違いありません。中小企業のIT化が思ったより進んでいないというデータが示すことは、考えようによっては、今の時期でも他に先んずることが出来ると考えることが出来ますから、社内会議などでITに関してを積極的な議題とするには、重要なタイミングかもしれません。

先に引用した統計資料には、企業から提出された自由記載欄の生の意見も多く掲載されています。当方ではコンサルティングの現場で、漠然としたお話も含めて色々とお伺いしていますが、具体的な内容がわからなくて当たり前だと思いますし、そういった単純な疑問や効果について、なんとなくでもご質問頂ければ、理解に繋がるようなお答えを必ず出すようにしています。今回は、データ分析から始まる、コンサルティングのごくごく一部分を紹介してみました。

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